井上 晃男 院長

【リクルート】インタビュー

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    井上 晃男 院長

「地域の発展は、医療の発展とともに」那須赤十字病院で医療の未来を

那須赤十字病院 井上 晃男 病院長は「地域の発展は、医療の発展とともに」との理念を掲げ、アカデミアの経験を活かした経営手腕を発揮して、地域に貢献する病院を目指しています。栃木県北地域で唯一の三次救急を担う460床の急性期病院を維持するため、従来にない新しい発想を実現する方針です。医療の未来を見据え、予防医学やメディカルツーリズム、医学を基礎とするまちづくりへの取り組みも始めました。

井上院長は語ります。
「那須赤十字病院は『マイタウン・マイホスピタル~地域に根ざし、ともに歩み、心ふれあう病院に~』をスローガンに地域に密着した病院を目指しています。しかし『地域の発展は、医療の発展とともに』が私自身の理念です。『病院と地域が協力することで、医療体制の充実と地域の活性化の相互作用をもたらし、地域の方々に貢献する。さらにはそれが住みよいまちづくりにつながる』といったコンセプトです。」

アカデミアでの経験を活かし、地域医療連携で経営改善

私は、那須赤十字病院に院長として2022年4月に就任しました。以前は佐賀大学、獨協医科大学とアカデミアの環境に長く身を置き、獨協医大では内科学(心臓・血管)講座の主任教授を12年務め、この間に学長補佐の役職に就き、大学病院では再生医療センター長、研究部門では先端医科学研究センター長を務めました。また、大学病院で地域連携・患者サポートセンター長として地域医療連携にも取り組んできました。

那須赤十字病院は、栃木県北最大の三次救急を担う急性期病院です。しかし私が当院に赴任した当初、常勤医師の人数は都心部にある同規模の病院に比べて圧倒的に不足していました。一方で非常勤医の人数が極めて多いことが経営にも影響していました。地域の医療機関には診療科偏在の問題がありましたが、当院での医師の配置も十分ではありませんでした。救急受け入れ体制や地域の医療機関との連携体制にも課題があり、地域の患者さんや医療機関からの信頼を回復する必要がありました。

私は3年間かけて病院の改革に取り組んできました。まず外科系を中心に常勤医師を確保して手術件数を増やし、救急医療体制を刷新して2024年10月には救命救急センターにおいて「絶対に断らない救急」が実現しました。次に、私自身が自分の足で地域のすべての医療機関を訪問して「顔の見える連携」の構築に努めるとともに、地域の各消防署を訪問し、救急患者さんの当院への積極的搬送をお願いして回りました。その結果、救急車の搬送件数が劇的に増加、紹介・逆紹介件数が増え、病床稼働率が上がり、平均在院日数が減り、経営状態が大幅に改善しました。

現在那須赤十字病院は24時間365日体制で、救命救急センターによる救急患者さんの受入を行っております。特に、急性心筋梗塞などの循環器救急疾患、くも膜下出血などの脳卒中に対しては、いつでも緊急対応が可能です。がんに関しては、地域がん診療連携拠点病院として手術・放射線療法・化学療法を効果的に組み合わせる集学的治療を行っており、昨年にはがんゲノム医療連携病院にも認定されました。整形外科や消化器外科で高難度の手術を手掛け、小児科では未熟児の医療も行うなど、大学病院に準ずる高度な医療を展開しています。当院の循環器内科における冠動脈カテーテル治療、脳神経外科における開頭クリッピング手術の技術は全国的に認められる水準です。泌尿器科、消化器外科、婦人科では、内視鏡手術支援ロボットによる低侵襲治療など高度な医療を実施し、大学病院に準ずる高度な医療を提供しております。

私は営業活動・社会活動にも力を入れています。地元企業や大企業の事業所への企業訪問を進んで行っています。医務室から怪我や急病の従業員をご紹介いただくほか、病院も一事業体であるという観点から、地域事業体としての連携を深めることが目的です。また地域のイベントには、救護班を出すだけではなく、事業体として参加しています。全国からランナーが集まる大田原マラソンでは救護班としての協力に加えて、ゲストランナーや女子マラソンの優勝選手を協賛しました。そのほか、大田原産業文化祭や与一祭り、屋台祭りといった地域のイベントにも意欲的に参加しています。最近では「那須高原ロングライド」という大規模サイクリングイベントに参加しました。2024年8月、北関東綜合警備保障(ALSOK)とレスキュー隊派遣に関する協定を締結し、今後の災害時には当院救護班と北綜レスキュー隊が合同で活動することになりました。また、市民向けに公開講座を積極的に開催し、ホームページもリニューアルしています。

厳しい時代の医療に対して、前向きに取り組む

社会問題になっているように、急性期医療は経営的な負担が大きく、将来的に急性期病院の廃院あるいは統廃合が進むと予測されています。当院が地域の中核病院として存続するためには、これまで以上に経営努力が必要です。病院経営には国からの補助金や会計上の事項も関係しますが、しっかり数字の推移を見て業績を振り返り、施策を検討する方針です。特に、医療DXはより良質な医療サービスの提供をはじめ、今後の医療業界において重要な役割を果たすと期待されており、国も積極的に推進しています。当院でも医療DXへの取り組みとして、株式会社リコーと協定を結び、当院のオンプレミス環境下で稼働するGPUサーバ、大規模言語モデル、生成AIアプリ開発プラットホームを導入し、業務効率化、高度急性期医療の推進、地域医療の向上に向けた独自の事業を展開しています。今後はさまざまなAIアプリを導入して、医療サービスの質の向上に取り組んでいく予定です。

医学的な観点を重視して、自由診療も取り入れる

医学の進歩とともに、保険診療以外の治療も注目されるようになってきました。また、日本の保険制度は厳しい時代を迎えており、今後は保険診療だけで病院を維持するのが難しいと考えています。

当院では医学的な観点を重視しながら、これまで扱ってこなかった保険外診療への取り組みも始めました。例えば、美容医療のニーズに目を向け、患者さんに貢献する医療を提供する方針です。当院の形成外科はシミやホクロの除去、AGA(Androgenetic Alopecia:男性型脱毛症)といった美容領域の治療にも専門性を発揮しています。口腔内悪性腫瘍など高難度な手術を得意とする歯科口腔外科でも、これまであまり行っていなかったインプラントや矯正歯科を積極的に行うようになりました。また、歯科衛生士がこれまでの業務に加え、ホワイトニングも始めました。整形外科では、変形性膝関節症に対してPRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)による再生医療を自由診療で開始します。PRP療法は自身の血液から濃縮された血小板に含まれる成長因子によって組織を修復する効果が期待される治療法です。私は大学で再生医療を研究しており、安全性が高く効果的な治療を選んで導入したいと考えています。

予防医学を充実させ、観光医療にも参入

今後は予防医学にも積極的に取り組んでいきます。早期に病気を発見して治療できれば、医療費も抑えられます。病気になってから治す考え方から、予防と早期発見にシフトするには、医療に対する意識改革の必要があります。当院の予防医学センターでは健診、人間ドック、予防接種を実施していますが、特に人間ドック部門の拡充を計画中です。現在、当院の人間ドックでは基本コースのほか、脳MRセット、レディースドック、ロコモ・フレイルドックなどの領域別ドックに加えてさまざまなオプション検査を実施しています。がんや動脈硬化、認知症のスクリーニングといったオプション検査を追加できるコースを2024年10月から用意しました。

当院は、冠動脈や脳動脈などの血管の描出に優れた新しいCTスキャン装置を2024年10月に導入しました。この装置を使用することにより、これまでカテーテルによる冠動脈造影検査に頼らざるを得なかった冠動脈疾患のスクリーニングが造影CTでも可能になりました。今後は、冠動脈CT検査を取り入れた「心臓ドック」を検討中です。

FMD(Flow Mediated Dilation:血流依存性血管拡張反応検査)は、血管内皮機能を調べる検査で、血圧測定のように腕をカフで圧迫して血管を締め、解放した後の動脈の広がりを計測し、動脈硬化のごく初期段階を評価する検査です。従来のFMDの測定には修練が必要ですが、より簡便に測定可能な「新規血管内皮機能測定装置(pFMD)」が登場したので、当院の人間ドックへの導入を考えています。」

当地域には全国でも有数の観光地があり、通年多くの観光客が訪れます。将来、インバウンドも含め当地に訪れる観光客を対象とした人間ドックや医療を提供する「医療ツーリズム」事業を計画しています。現在、自治体や地域の観光局、温泉組合、旅行会社との協定を進めているところです。医療を通して県北の観光に付加価値を提供し、観光客誘致に貢献したいと思います。

自治体と協力して「医学を基礎とするまちづくり」

当院が自治体、奈良県立医科大学MBT研究所と協定を締結してMBT(Medicine-Based Town)事業に取り組む構想があります。MBTとは「医学的知見をまちづくりに積極的に応用することによって付加価値の高いまちを作る、新たな形の地方創生手法」です。具体的にはMBT研究所が開発した「ライフスタイルセンシング」の技術で、在宅時の生活パターンから病気の発症や、悪化を予測して予防につなげます。この技術をへき地医療、在宅医療、健診などに応用し、一部の地域で実装実験を行う予定です。

地域の若い人に医療を志してほしい

近年、医療従事者を志望する人が減ってきました。当院では地域の中学校や高等学校の進路指導行事に参加して、医療従事者の早期育成にも力を入れています。病院は医師や看護師、臨床検査技師、放射線技師、臨床工学士といった専門職をはじめ、事務職員の尽力で運営されています。医療はさまざまな職種の人が活躍し、地域に貢献できる仕事です。地域の若い人に、ぜひ医療を志してほしいと願っています。

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